いつも通りお仕事をしていると循環器内科の医師から「1円ってレントゲンに写らないの?」と突然、聞かれました。
聞いた瞬間は心の中で「写るに決まってる。。。」と思いましたが、わざわざ僕に聞くということは何かが怪しいです。
と言う訳で、

と曖昧な返事をした後に、見せられたのが以下の症例報告のレポートです。
「Oesophageal coins invisible on chest radiography: a case report」
URLは以下
http://intjem.springeropen.com/articles/10.1186/s12245-017-0153-8
胸部X線撮影で見えなかった1円玉
症例
- 患者:46歳
- 性別:女性
- 現病歴:うつ病
46歳の女性が薬の過剰摂取、そして意図的に1円玉を飲み込み胸部に不快感を覚えて受診。
呼吸音の異常はなく腹痛の症状も無い。
1円玉を確認するため胸部レントゲンを撮影。
なぜか写らない
しかし胸部レントゲン上では1円玉を確認することはできませんでした。
実際の画像はコチラ!
画像が小さいので本当は写ってるんじゃないの!?と思ってしまいますが、このレントゲン上では確認できなかったということです。

出典:http://intjem.springeropen.com/articles/10.1186/s12245-017-0153-8
CT撮影で発見
患者さん本人が1円玉を飲み込んだのは間違いないということで、胸部CTを撮影したところ食道の中央部と下部に2枚の1円玉がハッキリと写ったのです。

1円玉を確認できたところでDrは患者に水を飲むことを許可。
その後、嘔吐したそうですが嘔吐物の中に1円玉は発見できず。
再度、CT撮影を行い1円玉が胃に到達していることを確認できたので、あとは自然に糞便中に排泄されるのを待つことになったそうです。
そして2日後、無事に体内から排出されたとのこと。
なぜXPでは写らなかったのか
CTでは明瞭に描出されているのにも関わらず何故胸部XPでは写らなかったかというと、1円玉の材質(アルミニウム)が骨の成分(カルシウム)と非常に近くX線透過率に差が付かなったことが挙げられます。
X線透過率は対象物質の密度、原子番号、厚みによって決まりますが、今回の事例では1円玉・骨・軟部組織の原子番号が近かったことが主な原因とレポート上の結論欄に記してあります。
それぞれの原子番号は以下の通り。
- Al:アルミニウム=13
- Ca:カルシウム=20
- 軟部組織≒7.5
参考までにX線防護素材としてお馴染みの鉛:Pbの原子番号は82!
原子番号が高い物質ほどX線を通しにくくなります。
またCTを見て分かるように1円玉は2枚とも、ほぼ身体の正中線上にあり背部の椎体と重なる位置というのも見えなくなった原因。
食道なので椎体と重なるのは避けられないですが、、、
正中線上、椎体から横にずれた位置に写っていたといしたら左右どちらかの気管支に入ってる可能性が高いので、これはこれで大変ですけどね(´;ω;`)ウッ…
日本の硬貨の材質
せっかくなので1円、そして5円、10円、100円、500円の硬貨の材質について調べてみました。
1円硬貨
- 素材:純アルミニウム
- 品位:アルミニウム100%
- 重さ:1.0g
- 直径:20mm
- 厚さ:約1.5mm
アルミニウム100%ということで原子番号は13。
論文中にも記載があるようにカルシウム(原子番号:20)を主成分とする骨や軟部組織とX線透過率が近く、体内に入ったときには単純写真では見えないことがあります。
1円玉を誤飲した方を撮影するときは撮影条件を考えなければいけません。
5円硬貨
- 素材:黄銅
- 品位:銅60~70%、亜鉛40%~30%
- 重さ:3.75g
- 直径:22mm
- 厚さ:約1.5mm
銅Cuの原子番号は29、亜鉛Znは30。
5円玉がX線写真上で写らない!ということは無さそうですが、X線の入射方向に対して面が垂直だった場合は注意が必要ですね。
これは全ての硬貨に言えることですが。
10円硬貨
- 素材:青銅、銅95%
- 品位:亜鉛3%~4%、スズ1%~2%
- 重さ:4.5g
- 直径:23.5mm
- 厚さ:約1.5mm
10円玉も5円玉と同じく銅が主な素材。
50円硬貨
- 素材:白銅、銅75%
- 品位:銅75%、ニッケル25%
- 重さ:4.0g
- 直径:21.0mm
- 厚さ:約1.7mm
銀色の50円硬貨ですが、こちらもメインは銅だそうです!
今まで僕は知りませんでした(´;ω;`)ウッ…
100円硬貨
- 素材:白銅、銅75%
- 品位:銅75%、ニッケル25%
- 重さ:4.8g
- 直径:22.6mm
- 厚さ:約1.7mm
50円と100円硬貨は素材自体は全く同じ。
1円、10円、50円と差別化を図ってきたのに、ここに来て同じとは不思議なものです。
500円硬貨
- 素材:ニッケル黄銅、銅72%
- 品位:亜鉛20%、ニッケル8%
- 重さ:7.0g
- 直径:26.5mm
- 厚さ:約1.8mm
硬貨の王様である500円玉も結局は銅のようです。
撮影条件に注意
X線の力を持ってしても体内異物が100%分かるわけではなく、今回の症例のように様々な条件によって本来見えるものが見えなくなったりします。
幸い!?なことに僕はまだ1円玉の誤飲疑いでレントゲンのオーダーを受けたことがありませんでした。
この症例を知る前だったら、いつも通りの胸部レントゲンの撮影条件で撮ってしまい、今回のような状況に陥ってたことでしょう(´;ω;`)ウッ…
もちろん1円玉誤飲疑いでレントゲンを撮るなんてことは無い方が良いに決まっているのですが、万が一遭遇したら今回の症例を思い出して必ずや写しだしたいと思う次第です。